山陽リレーコラム「平井の丘から」

自己形成の勧め 副学長 櫻井佳樹

掲載日:2025年7月24日
カテゴリ:言語文化学科

私の研究テーマは、「自己形成」である。人間として生まれ、人間になっていくそのプロセスに興味がある。人は家族や身近な人々から、学校の教師や友人、職場の人間などの他者との相互作用の中で、様々な役割を果たしながら「社会性」を身に付けるとともに、個性を磨きながら、自己を実現していく。そのプロセスは十人十色である。同じ人間でも、生まれた時代や環境が異なれば、全く異なる人生を送ったに違いない。その点で、誰もが唯一無二の存在である。同じように見えても一人一人異なる。そこが面白い。人生は様々な人と出会い、他者を理解し、自己を理解し、そして人間を理解することの繰り返しだ。

自己とは何か。定まった固定的な自己があるわけではない。常に変化し、変容する自己を手掛かりに、他者や制度や環境の声を聴きながら、自己の進むべき道を見定めていく。その目標が安定していれば、楽な道かもしれないが、現代は急激に変化する時代である。時代が変われば、その評価もがらりと変わる。目標の再設定が絶えず必要である。それは不安定であり、不確かな時代、激しい競争の時代である。常に自己と対話しながら、自己の行くべき道を探していく。対象に近づいて様々な角度から見る虫の目、高い位置から全体を俯瞰する鳥の目、時代の変化や将来を予測する魚の目も必要だが、時に留まって敵がいないか、食料はあるか、周囲を観察しながらまた進むミーアキャットの目(菅野仁2003『ジンメル・つながりの哲学』NHKブックス参照)が求められているのかもしれない。

 人生100年時代と言われる。私が想定していた老後はまだ先だ。むしろ人間は死に至るまで学び、歩き続けるのだろう。みなさん、大学時代になすべきことは、哲学者・和辻哲郎が語ったように、「教養」=「精神的な芽を育てること」である。自己の中に生まれた芽に気を配り、水や光や肥料を忘れず手をかけ(刺激を与え)、自分ならではの木を育て、花を咲かせることである。そのプロセスは決して若くして短期間で終わるものではなく、生涯を通して行われる大事業(パイデイア、Bildung(ビルドゥング))なのだ。そうだ。「なんのために生まれて、なにをして生きるのか」(やなせたかし「アンパンマンのマーチ」より)。その大きな問いを携えて、共に歩もう。その問いを持つ者を大学は歓迎します。大学で過ごし、仲間と語る場が、青年期、成人期、老年期と、人生には3度必要だ。

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