山陽リレーコラム「平井の丘から」

岡山で方言を楽しむ 中野晃希
[2025年1月9日]

掲載日:2025年1月9日
カテゴリ:言語文化学科
岡山に赴任してもうすぐ一年になるが、岡山を含む山陽地方の方言には面白いものが多かったように思う。

山陽地方出身の先生方が会議でよく使う言葉に「たちまち」がある。標準語では、例えば「飲めばたちまち効く薬」のように「すぐに、急に」という意味なので、赴任当初は急ぎの仕事なのだと思いすぐに終わらせると、そんなに急いでいる様子もなく困惑したことを覚えている。岡山で生まれ育ったみなさんはもうわかっていると思うが、「たちまち」は「とりあえず」を意味する方言である。
逆に、私の出身である長野との共通点もあった。「レタスことば」は2000年代に入ってから東京で広まりだした、「飲めれる、聞けれる、書けれたら」のように余計に「れ」を足してしまう言い方である。実はこれは1900年代初頭には長野、高知、岡山、大分などで使われていた方言である。この「レタスことば」と言う呼び名は岡山の人が初めて使用したようで、岡山弁を「ら抜き言葉であると同時に、れ足す言葉でもあった」と評している(青山融 1998 『岡山弁JAGA(じゃが)!』月刊タウン情報おかやま別冊)。

レタス言葉に似た表現として、「さ入れ言葉」なるものも存在する。これもまた余分な「さ」が入っている表現で、五段動詞の使役形を「飲ませる」ではなく、一段動詞「食べさせる」のように「飲まさせる」と活用するものを指す。敬語と併用して「喋らさせていただきます・先に歌わさせていただきます」のように用いるのが一般的である。 近年では国会で多用されている表現であるが、関西から「〜せていただく」という敬語表現が東京に普及したことに伴って使用が増えた、これもまた方言である。

「さ入れ言葉」の分布としては、平成八年度に行われた文化庁の世論調査によると、岡山を含む中・四国や九州など、東京から遠く、「ら抜き言葉」が普及している地域で広く使用されているとの報告がある。
若者ことばとも呼ばれる東京新方言である「ら抜き言葉」「レタス言葉」「さ入れ言葉」の道程を辿ってみると、意外とその中に岡山の影が見えてくる。岡山で生まれ育ち、東京や大阪に憧れる学生は多いが、その流行りの若者ことばの最先端は、実は岡山弁にあるのかもしれない。
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